ダミアン・ハースト(美術手帖2012年7月号)
今回は美術家と美術書を併せてレコメンド。
《ダミアン・ハースト》の事を今の時点で全く知らない方は予め作品の画像などを軽く展望してから読んでいただければ。
下記。
Damien Hirst at Tate Modern - YouTube
美術手帖2012年7月号
《ダミアン・ハースト》特集号
美術雑誌『美術手帖』の2012年7月号はハーストの特集号。
表紙のダイヤモンドスカルは氏の作品である。
タイトルがそして意味深。
『神の愛のために』。
生命の存在と、かつてそれが存在していた証としてのドクロをダイヤモンドで覆う。
悪趣味(褒めている)と虚構が肉体に直接張り付けられる事で生命の虚無性がより露わになっているような……。
黒地の表紙にこのいやらしい輝度を持ったオブジェクトが据えられているだけで既に満足してしまったり。
今号の約半分である100ページ強がハーストの特集として割かれている。
これ1冊だけで十分詳しく知ることが出来た。
作品の写真も大きく多数収録されていて視覚的に先ずダイレクトに楽しめる。
見開き2ページで展示空間ごと転写することが非常に効果的。
ホワイトキューブと作品によるカッチリしたコンポジションも味わってこそ。
ハーストの作品には生物がそのまま生きた状態、または、死んではいるが形を保った状態で扱われるものが多い。
ダイレクトに(嫌でも)死生と向き合うこととなる。
虫や動物は日常生活を送る上では意識しなくとも眺めるにしろ接触するにしろよくあると思うが、これを美術館内で意図して展示物として対峙するとまた別の視点や意識として扱われることとなる、または元あった認識が拡大される。
生物としての種類は違うにしても、人間(鑑賞者/私)と同じ命の所有者であることに違いは無い。
眼前に蠢く、或いは人工的に凍結したそれらと自身のメメントモリをリンクさせて生命観が揺さぶられてしまう。
メメントモリという提示はハースト作品に強く憑いている重要な要素である。
生者と死者と並行して観ることで、生者としての今の自分とこれからそうなるであろう死者としての自分を無理やり見せつけられることとなる。
脅しでは無く、生の肯定として。
単純に造形としての美しさも兼ね備えている点が個人的には重要だと思っている。
ミニマリズムを基底に構築された端正なコンポジション、レイアウト。
サメやウシが生々しく形を残して使用されている割には、それを収めるための箱が極めてクールに包んでくれているので不思議と“生の雑然さ” はコントロールされ鎮静している。
この、一枚隔てるものというものがまた何かを暗示しているようで(安易だけど)。
ミニマリズムと生の雑然さの対比はハースト感が強く感じられて良い。
管理と無管理。
生物が直接現れない作品でも統制は整然としていて美しい。
文章的な内容もかなり充実している。
何より本人へのロングインタビューが読めるということ。
学生時代からキャリアを積み重ねて現在に至るまでの経緯を自ら回顧してゆく流れで追っていける。
結構クールな人なのかと思いきや、応答を実際に読んでみたらかなりユニークなので笑ってしまったw
加えて、今までどのようなアーティストに影響を受けて来たかも直接うかがえるのが面白い。
何度も名前が挙がるのが《フランシス・ベーコン》。
言われてみれば、両者とも剝き出しの生というものを克明に扱っているように思う。
一見ショッキングやグロテスクな視覚の洗礼を受けるが、そこにある生の儚さや無常さを表わしているような。
死の事を考えることが反転して生の事を考えることとなる。
《ジェフ・クーンズ》や《アンディ・ウォーホル》の名も頻出していた。
スター同士、表出するポップ性や普遍性はあるもので。
……ハーストと交流のある人物へのインタビューも多く載せられているので立体的に多面的に像を浮かび上がらせることが出来る。
“アートとビジネス”という話題的に不可分な内容にも勿論接近している。
……ということで彼に興味を抱いた場合はこちらの一冊が本当にオススメ。
表紙もカッコ良いし、読後は飾っておけば部屋や本棚のオブジェクトとして生きる。