今回は美術書籍のレコメンドを。
『キュレーション 知と感性を揺さぶる力』
キュレーターである《長谷川祐子》さんによる著書。
“キュレーター…博物館・美術館などの、展覧会の企画・構成・運営などをつかさどる専門職。また、一般に、管理責任者”。
美術を作家側以外からの視点からも眺める。
鑑賞者である私たちと作品そのものの間を取り持つような重要な仕事である。
本文では“媒介者としてのキュレーター”という言葉で表されていたり。
展示空間のレイアウトのみならず、あらゆる効果、影響を考えつつ設営に携わる。
普段何気なく美術館などで鑑賞していたものが、読後には企画側の仕掛けや苦労が少し見えてくるようになるかなと。
話を進めるにあたって、幾人もの美術家の具体的な紹介も併せて行われる。
《ジェームズ・タレル》、《マシュー・バーニー》、《ヘンリー・ダーガー》、《トーマス・デマンド》、《草間彌生》さんなど。
ある程度ページを割かれしっかり人物像や作風をうかがえるので、そのパートを読むだけでもかなり充実感がある。
新しく気になる作家を見つけることも出来る。
作品自体の写真もモノクロであるが少しは掲載されているので、この本をきっかけに新規開拓の余地もある。
制作のコンセプトを詳しく知った後に追える楽しみ。
上記に紹介したような作家たちのあらゆる背景を汲み、鑑賞者にその意図を伝えるためには個々でその展示方法などが異なる。
そのエピソードがまた美術の立体性を精細に描いている。
長谷川さんは国内の美術館のみならず、国外での活動も数多く手掛けていらっしゃるので、世界各地の場所によって特性の差異があることにも触れられている。
国ごとに文化のコンテクストが違うことに留意しなければならない。
作風の好みもそれぞれで分かれるといった話も、各地に精通した著者ならでは。
室内の展示の以前、美術館という建物そのものの設計建築の時点から仕事をする場合もある。
地域に根差した生きた施設としての慎重な計画。
《金沢21世紀美術館》を例示として扱う。
室内から美術館、美術館から地域、地域から社会とキュレーションが外部へと連続している様を見ることが出来る。
美術館は閉じて完結したものではないと改めて思った。
社会と性、といった美術側からの投げかけについても考えさせられるものがあったり……。
美術館という場の制作者からの一冊ということで、新しい発見が多い一冊だったので、是非お読みいただければと。
Twitterもアカウントお持ちなのでフォローも推奨。
あまりツイートはなさっていないようだが。
下記。
@YukoHasegawa
本書では扱われていないが、オマケ的に関連動画を最後に紹介。
《池田亮司》さんの数年前の展示のキュレーションもなさっていたらしい。
その解説。